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接客業はつらいよ! かんどーのよもやま日記!

趣味はスポーツクラブでグループパワーに参加することと走ることです。仕事は接客業です。しばらく下ネタは封印します。

ロカビリーとウッドベースと小さな恋の物語

 


こんにちは、かんどーです。


わたしの記憶はとても曖昧です。好きな歌の曲名が思い出せない。でも1フレーズ聴くとぽろっと涙が出てきたりします。


わたしは、恋のことを駅の名前で記憶しています。先日ある人と話しているとき、ちょっとマニアックな私鉄沿線の駅の名前が出てきました。一応都内ですが、下町っぽい駅です。


その駅で始まった、小さな恋を、思い出しました。


外がとっても寒いので、今日はその小さな恋の話をしたいと思います。





わたしは波乱万丈な20代を過ごしていました。それでも、一定期間落ち着くことがありました。それは、アルバイトが長く続いているときです。


わたしは某コンビニでアルバイトをしており、そこのアルバイトは結構長く続きました。主にレジ打ちを担当していましたが、ホットスナックを作ったり、作る量を考えたり、売り上げのことを考えながら能動的に仕事をしていました。単純にコンビニの仕事が楽しかったんです。

そのコンビニの話はこちら。
怒鳴られることもあったけど、普段の勤務は結構楽しかった。
 

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さて、そのコンビニで、あるパートの女性と親しくなりました。その人は久しぶりに親しくなった「まともな人」でした。お子さんが2人いて、実家は飲食店を営んでいる。育児がひと段落したし、家業も落ち着いているからパートに来た…とのことでした。

本当に明るい女性で、わたしより10歳くらい年上でした。こんなふうに年を取りたい…そんな憧れを持たせてくれる「幸せオーラ」があふれていました。売り上げを考えながら働くという部分で、わたしたちは共鳴しました。


わたしと彼女(ミヤさんて呼んでました)は、少しずつ仕事以外の話もするようになっていきました。当時クラブシンガーを目指していたわたし。夕方になるとミヤさんは「今日も歌いに行くの?」と聞いてきます。「はい、今日はスタジオで個人練習です」とか「今日はお店(シンガーとして働いていたライブバー)です」とか答えていました。にっこり笑って「頑張ってね」と言ってくれるミヤさん。



そんなある日、ミヤさんはわたしにチケットを手渡してきました。


「サオリちゃん。わたしの弟、バンドやってるの。良かったら見にきて!」


へえ、ミヤさんの弟、音楽やってるんだ。わたしは興味深くチケットを眺めました。場所もそんなに遠くないし、アルバイトが終わってから行けばちょうどいい時間でした。チケットは2枚。友達がいないわたしには試練のようなチケットでしたが、なんとか知人の女の子に付き合ってもらえることになり、わたしはそのライブに無事、「友達と2人で行く」という体裁を整えられました。






ライブ当日。



ライブハウスの階段を地下へ降りていく瞬間は、やっぱり緊張する。わたしが当時歌っていたライブバーも地下だった。これは、別の世界へ続く階段。ヒールの靴をカツカツと鳴らしながら、わたしは即席の女友達と階段を降りていった。


ミヤさんにもらったチケットで受付をする。バンド名を伝え、誰を見に来たのかを言う。この瞬間はちょっと恥ずかしい。言い慣れてない横文字のバンド名を言った瞬間、顔が真っ赤になるのがわかった。


ライブハウスの重厚なドアを押して中へ入ると、まさにライブハウス! という光景が広がっていた。暗い客席に、小さなバーカウンター、驚くほどに客席に近いステージ、ステージで歌い、鳴らし、跳ぶバンドマンたち。その日のライブはロカビリーテイストの曲をやるバンドの対バンだったらしく、ノリがもう完全にツイスト系というか、一昔前の音楽が好きな人にはたまらないサウンドが鳴っていた。


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エルビス・プレスリーやエディ・コクランが大好きだった当時のわたしは、来て良かったと心から思った。


ミヤさんの弟が出演するまでまだ30分以上あったが、他のバンドのライブも心から楽しんだ。ロカビリーは、なんていうか、ちょとクサい。アメリカで若いパワーが行き場をうしなって集まってきたような、そんな青春クサさがある。わたしは行き場のないパワーをぶつけてできた作品が大好きだ。



暗転。バンドの入れ替えになった。次のバンドがミヤさんの弟のバンドだ。ミヤさんの弟はベースをやってるって言ってた。いいバンドだといいな…音楽への期待をこめてわたしはステージを見つめ、演奏が始まるのを待った。



真っ暗なステージから「気」のようなものがたちのぼってきた。あ、これもしかして「すごいバンド」かもしれない。一瞬で場の空気が変わった。シンと静まり返る場内。観客は演奏が始まるのを、つばをのみこんで待っていた。


刹那、ドラムのカウントから、ウッドベース、ドラム、ギターのサウンドが一気になだれ込んできた。客席ごと揺るがすような圧倒的なサウンドが完成されていた。


ロカビリーが好きな人は、あのウッドベースの音が好きなんじゃないだろうか。わたしもロカビリーを聴くときは、ウッドベースの動きに注目する。ミヤさんの弟は、ものすごく魅了的な弾き方をする人だった。


普通の弾き方からトリッキーな体勢に移り、ベースに乗るようにして弾いたりする。足の間にウッドベースを挟み込んで鳴らしている時もある。彼の目は客席をしっかりと見据えたまま、ウッドベースを自在に操っていた。


ものすごく運転のうまい大型バイク乗りを見ているような気持ちになった。体勢が変わっても音が安定してる。その体勢で鳴らす!? っていう音を鳴らしてくる。曲のグルーヴをぐいぐい引っ張っている。この人かっこいい。あ、やばい。なんか気持ちやばい。


ドラムが踊る。ハイペースでも一糸乱れぬリズム。スネアドラムの音の張りも最高。パン! パン! と気持ちよく鳴っている。ギターボーカルはギターをかき鳴らし、ドラムとベースの上にメロディを乗せていく。もうそれだけで充分に気持ちがいいのに、その上にさらにボーカルのメロディーが乗るのだから、気持ちよくないわけがない。ギターボーカルの人は器用にギターを弾き、歌った。ここが日本だと忘れるようなボーカルだった。完全にここはアメリカ。音楽ってすごい。


たった3人でつくりあげる音楽に、わたしは完全に酔いしれた。



参考までに。こんな雰囲気と曲調。ベースかっこいいでしょ?

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ロカビリーの雰囲気バリバリの曲調なんだけど、技術が高いからか、アップテンポの曲になるほどにテンションが上がってしまう。いや、もしかしたらそこまでアップテンポじゃなかったのかも。速くなっていたのはわたしの、あの場の鼓動だったのかもしれない。



そのライブが終わり、ぼんやりしているとミヤさんの弟が近くに来た。あっ、と思ってそちらを見やると、「サオリさんですよね?」と声をかけられた。あー、そうです。みたいに返答したが、うまく答えられていなかったと思う。一緒に来てくれた友達がうまく会話をしてくれた。挨拶と世間話しかできなかったけど、わたしも音楽が大好きで、今日のライブがすごく良かったっていうことだけは言えた。ステージの上のあなたが超かっこよくて見とれてました、と思ったけど、言えなかった。

ミヤさんの弟は、美人のミヤさんに似て、素でかっこいい人だった。わたしより5歳くらい年上だった。だけどステージから降りたら、さっき放ってた尋常じゃないオーラみたいなのが消えて、普通の人になってた。演奏してるときと喋ってるときのギャップがすごい。彼は、ヒロと名乗った。


ライブから数日後、ミヤさんとコンビニで同じシフトになった。


「ライブ来てくれたんだってね! 喜んでたよー!」
「ヒロさんのバンド、超うまいですね! 聴いて驚きました」
「ふふ、地元のお祭りとかには呼ばれてるから、一応頑張ってるんだよねー」
「いや、ほんとにすごく好きな曲調だったし楽しかったです!」


そんな会話の後、ミヤさんはこんなことを言ってきた。


「サオリちゃん、ヒロと会ってみない?」
「えっ?」
「ヒロ、すごい奥手で、音楽ばっかりやっててもう30になるの。サオリちゃんなら、音楽のことも理解してくれそうだし、ね? 一度会ってみて! うちに遊びに来て、ついでに会う感じでいいから!」



えええええ…。なんかいきなりハードル高いことになってるなぁ。。わたし、このコンビニでこそ真面目に仕事しているけど、結構いろいろめちゃくちゃだし、ミヤさんのお家、きちんとしてそうだし、なんか家族ぐるみっぽいこの「お見合い感」、微妙に嫌だなぁ。。。


しかし、親切なミヤさんの気持ちを無碍にはできず、わたしは次の休みに下町の駅にある、ミヤさんの家に遊びに行った。

ミヤさんの家は、ミヤさんのご両親、ミヤさん、ミヤさんのだんなさん、子ども二人、そしてヒロさんが住んでいた。結構大きな家だった。子どもたちと遊んだり、ミヤさんと喋ったりして、ヒロさんは居心地悪そうにそこにいた。だけど、ヒロさんなりに気を遣ってくれて、部屋にあるウッドベースを見せてくれた。音楽のことを話しているときのヒロさんは、ステージの上にいるときの顔になってた。


その後、夕方になり、ミヤさんはわたしとヒロさんに二人で食事に行っておいでと送り出した。何から何までお見合いやな…と苦笑しながらも、二人で歩いた。


ヒロさんは本当に奥手で、ぜんぜん話題を振ってこなかった。わたしもあまり話す方じゃなかったので、会話は変な方へスリップしてばかりだった。目隠しをした男女が手探りでお互いを探るような会話だった。

ミヤさんおすすめのレストランに入り、食事をした。緊張して味がわからなかった。多分ヒロさんもそうだったと思う。どうやって時間を過ごしたのかわからなかったけれど、とにかくミヤさんのリクエストには、応えた。



正直に言うと、一夜限りの関係を個人的に結ぶんなら、簡単にできた。食事のときも緊張なんてしなかったはずだ。だけど、この人とは、ヒロさんとは、もしも付き合うことになったら家族ぐるみなのだ。だからボロが出せない。音楽活動していること以外に、話せることが無い。ドロドロとした汚い感情も、現状に不満を持ち続けていることも、男女の関係に逃げ込んで寂しい夜を紛らわすことがあるということも、言えなかった。


わたしはひどく疲れてしまったので、その日の食事以来、ヒロさんに会うことはなかった。ミヤさんには、今はそういう気持ちじゃないとだけ言って、仕事をまじめにこなし、それまで通りの付き合いをした。



それからもわたしは、刹那的な日々を送り続けた。自分を大切に扱うことなんてしなかった。みんなでワイワイするより、男の人と秘密の夜を持つ方がたのしい、そんなことを考えていた。歌はまだやめなかった。夢にすがりついていた。






数年後、わたしは歌をやめ、いろんな仕事をして、たまたま携帯ショップの販売員の仕事に就いた。その仕事で最初に派遣されたのが、ミヤさんとヒロさんが住む、あの町だった。

駅はまったく変わっていなくて、町はあのころのままだった。

お昼休憩の時、わたしは外でごはんを食べてくると言い、店の外に出た。ミヤさんとヒロさんの面影が残る町を、自分の足で一歩ずつ歩いた。家は、変わらずそこにあった。相変わらず大きな家だった。

一緒に入ったレストランもあった。やさしくそこにあった。



ロカビリーを愛した不器用な人。大きなウッドベース。弾まなかった会話。開けなかった心。


もしもあの時、勇気を出して心を開いていたら、わたしたち少しは付き合ったのかな? もしかしたら、そのまま幸せに暮らす未来とか、あったのかな?

目の奥がつんとなった。心臓がトクンと鳴った。


あれは、恋だったんだ。うまくいかなかったけれど、たしかに、小さな恋だった。



破天荒な20代のわたしに、不器用に、素のままで接してくれたヒロさん。

大きなウッドベースがとってもかっこよかった。

勇気を出せなくて何も始まらなかった。



心に宿る燃えたがりな感情を、乾いた心で包み隠し、わたしはくるりと踵を返して携帯ショップに戻った。仕事をするときは、感情はいらない。仕事は、技術と経験でするほうがうまくいくんだ。


小さな恋の話は、こうしてたまに夜、思い出して撫でるだけでいい。




それじゃあ、また明日!(今日も長えよ!)



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