接客業はつらいよ! あけすけビッチさおりたん日記!

さおりたんは現代に生きる、不器用なジャンヌ・ダルクです。貞操観念はありません。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

【短編小説】先客万来

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こんにちは、かんどーです。

 

今日も短編小説の更新ですw もはや何のブログだかわからないですねw 短いので、お時間のある方はおつきあいいただければと思います。日本は近い将来、こうなるだろうと思いをめぐらせて書いたSF小説です。

 

 

 

先客万来

 

 ミネギシはその日、ようやくこぎつけた美人とのデートに気合いを入れていた。デートは三時間後だ。些か急ではあるが、三時間あれば充分に女を「落とす」鉄板のコースが用意できる。

 

 一軒目はスペイン料理がいいだろう。二軒目はいきつけのバー。そして夜景の美しいシティホテルを予約しておく。これで完璧だ。今までもミネギシはそうやって「完璧な」デートを用意し、そして女をその手に抱いてきた。早速スペイン料理の店に電話をする。

 

「……ただいま電話が大変混み合っております、大変おそれいりますが、このままお待ちいただくか、もう一度おかけ直しいただきますよう……」

 

 自動音声だ。おかしい。スペイン料理の店は個人店だから、電話が鳴りっぱなしのことはあっても、自動音声などなかったはずだ。スマートフォンを操作し、店の電話番号を調べ直して再度かけるが、やはり自動音声が応答した。

 

「おかしいな。いいや、この近くにあった地中海料理の店にしよう」

 

 ミネギシはスペイン料理の店をあきらめ、そのすぐ近くにある地中海料理の店に電話をかけた。ここも味やサービスの良さは調べがついている。

 

「……ただいま電話が大変混み合っております。大変おそれいりますが、このままお待ちいただくか、もう一度おかけ直しいただきますよう……」

 

 まただ。自動音声。っていうかこのアナウンスどこかで聞いたことがあるぞ。メーカーや携帯電話なんかのコールセンターで使ってるやつじゃないか。なんだ、客からの予約電話を受けないつもりか。ミネギシはスマートフォンを操作し、地中海料理の店のネット予約を試みた。それまで、行きつけの店は常に電話予約で、ネット予約などしたことがなかったが、比較的簡単な操作でネット予約は完了した。

 

 しかし、画面には「ご予約の要望を承りました」と表示された。要望? 予約が完了したんじゃないのか。どういうことだ。ミネギシは画面をスクロールさせ、予約完了画面の最下部まで読みこんだ。そこには「ご予約完了は返信のメールにてお知らせいたします。大変恐れ入りますが、混み合っている場合はご予約できかねる場合がございます」と書いてあった。まあ、平日だし席が取れないということはあるまい。ミネギシが二軒目のバーに電話をかけようとしているとき、メールが来た。地中海料理の店からだった。

 

「大変恐れ入りますが、本日は満席となっております、またのご来店をお待ちしております」

 

 どうやら予約でいっぱいのようだ。しかし平日でこんなに電話もつながらず、予約も取れないことなどなかったのに、どうしたことだ。その後ミネギシはイタリアンの店、ハワイ料理の店なども電話、ネット予約を試みたが、すべて同じ対応であった。バーに電話もつながらなかった。ホテルは予約こそできたが、いつもより二割ほど高かった。

 

 結局、その日予約できたのは新しくオープンしたばかりの海鮮居酒屋だけだった。店内は雑多な雰囲気でムードなどなく、相手の女は、

 

「若い人たちの中で飲むのも、たまには面白いですね」

 

 と皮肉をいってのけた。早々に切り上げ二軒目のバーに向かった。やはり電話が繋がらなかったので、予約なしで向かうことになったが、カウンターの二席くらい空いているだろう。ミネギシは完全にしらけムードの美女を連れて、バーの重厚なドアを押した。黒服の従業員が丁寧に出迎える。

 

「こんばんは、ミネギシです。電話がつながらなくてね、予約をしてないんだが……」

「申し訳ございません。本日は予約で満席となっております……」

 

 のぞき見た店内は数組のカップルがいるだけで、「予約で満席」と言われてすぐに納得できる状況ではなかった。しかし連れのいる状態で店員ともめたくない。ミネギシは黒服に小声でたずねた。

 

「一杯か二杯飲むだけだから、そんなに時間はいらない。テーブル席でもいいんだ、席はないのか?」

「申し訳ございません。本日は予約で、満席、となっております……」

 

 噛み含めるような言い方に、ミネギシは諦めの感情を持ち、バーをあとにした。別のビルにある地下へ潜ったところにあるチェーンのバーに入る。ざわざわと騒々しい。合コンの二次会のような雰囲気のバーでキャッシュオンシステムにのっとり、現金を支払ってカクテルを二杯買う。自分でテーブル席を探して席に着き、美女に飲み物を手渡した。彼女はイヤな笑みをつくって、

 

「ミネギシさんって、くだけたお店がお好きなんですね。今日はとっても賑やか」

 

 そう言った。ミネギシはトイレに立ったついでにホテルのキャンセルをした。

 

 

「……ミネギシさんも弾かれちゃったのかー」

「あの超常連の、シゲタさんも弾かれたみたいですよ」

 

 スペイン料理店の中では、従業員同士でそんな会話が繰り広げられていた。

 

「まあ、ミネギシさんは店員に偉そうな態度を取りますからね。仕方ないでしょう。ウチでは比較的大人しくしていたようですが、ほかの店では結構ひどかったみたいですよ」

「そのわりに金使わないんだよね。安いボトル入れるか、ひどいときは持ち込みで飲んでいくよね。店のこと考えたら、そうそう持ち込みしようなんて思わないものだけどな」

 

 

 この日は「個人番号照会型予約システム」が全国の飲食店、ホテル業界に一斉に導入された日だった。簡単な仕組みである。飲食店を使った個人に対し、店が点数をつける。

 

 「個人番号照会型予約システム」は5点満点で、普通の客は「3」である。居酒屋なのに食事のメニューだけを頼んで飲み物を頼まない、などがあれば「1」をつける。店内で騒いだり、店員に横柄な態度を取った場合も「1」だ。暴れたりした場合は即「マイナス評価」を付けることができる。

 

 チップをくれた、周りの客に気遣いのできる振る舞いだった、たくさんドリンクを頼んだ、などの高評価ポイントがあれば「5」がつく。「2」は店の雰囲気に合わない、異常に長っ尻の場合につける。「4」は好印象であったり、連れてくる客の質が良い場合につける。

 

 その評価で「2」以下の客は加盟飲食店の予約ができない仕組みが全国的に取り入れられた。ほとんどの人間はその仕組みが導入されたことにも気づかなかったが、約1割いる「2」以下の人間はこの仕組みによって、いきつけの店を失った。

 

 このシステムでは、個人経営の居酒屋はほとんど仮加盟した。しかし、多くの客を受け入れたいチェーン店、食べたら出るようなラーメン店、牛丼店などは加盟対象とならなかった。それらの店は通常通り営業し、度を越える客が来たら警察へ通報する、というこれまで通りの手順で良いという判断だった。

 

 「2」以下の彼らは、そういった「非加盟店」にしか行けなくなった。おしゃれなバー、ちょっと凝った料理を食べることはかなわない。しかし彼らの多くは、女を口説くために飲食店を使っていたので、この制度があっては動けない。そこで使うのが救済策だ。

 

 彼らには追って「飲食店での過ごし方マニュアル」が届けられた。そうして試験を受けて、合格したら一か月「仮免」が与えられる。「仮免」の間はすべての加盟店に予約が可能となるが、試験料として飲食料金が二倍になるうえ、店員から常にその態度を監視されることとなる。しかし「仮免」中に5回以上飲食をしないと「3」に戻してもらえないため、彼らは足しげく飲食店に行き、好印象な顔で笑い、高い酒を注文し、試験料が上乗せされた高額な飲食代を払った。「3」を取らなければおしゃれな店で飲食できず、女を口説くこともできないからだ。

 

 インターネットの掲示板で「仮免期間中、食事同行者求む」という書き込みも目立った。「2」以下の人間であることを身近な人間には知られたくないので、ネットで知り合った者同士が連れ立って行くのである。適切な声のボリュームでしゃべり、かつ楽しそうに過ごすことができる女性同行者は引っ張りだこであった。「同行やります。必ず合格させます」などと書き込み、タダ飯にありつこうとする女性まで出始めた。

 

 

 飲食店は毎日、営業終了後に高笑いをしていた。

 

「ははは! 今日も仮免が5組! ふだんと同じメニュー出してもあいつらすっげー喜ぶし、偉そうな態度も取らないし、売り上げも倍! 何て言うか、仕事しやすいよな!」

「この制度に感謝だな。もうムカつく客に頭を下げなくていいし、お互いに気持ちよくサービスを提供したり受け取ったりできる。ストレスもたまらないし、良いことずくめじゃないか」

 

 制度によって飲食店側の対応は真っ二つに分かれた。一つは「気持ちのいいサービスを気持ちよく受けてもらえるのだから、今まで以上にサービスを良くしよう」というもの。もう一つは「もう嫌な客の相手をしなくて良いし、嫌な客だと思ったら1点をつけて帰してしまえば、いずれ来なくなる。サービスはタダではない」というものだった。

 

 飲食店側は、意見こそ真っ二つに分かれたものの、左うちわ状態での営業状態は変わらなかった。その状態が半年ほど続いたころ、「個人番号照会型予約システム」に加えて次なる制度の導入をすべく、某所にて政治家を含む日本のトップが集い、会議をしていた。

 

「そろそろ次の制度を導入しましょうか。加盟店の点数付け。客に点数をつけるんだから、自分たちも点数が付けられることくらい、当然飲食店側も予想していたでしょう。仮免制度によって利益も上がったことでしょうし、その利益を使って正当な営業をしていれば、変な点数にはならないですよ」

 

「しかし、2点以下だと、予約システムから外れるって死活問題ですよね。飛び込み客しか来なくなるってことじゃないですか。非情な制度だなあ……」

 

「店舗番号照会型予約システム、来月から試験導入しましょうか」

 

 導入は満場一致で決まった。

 

 

 

 

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