接客業はつらいよ! あけすけビッチさおりたん日記!

さおりたんは現代に生きる、不器用なジャンヌ・ダルクです。貞操観念はありません。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

【短編小説】痛くも痒くもない

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こんにちは、かんどーです。昨日、過去に書いた短編小説を一記事にまとめました。その流れで本日も短編小説を更新します。

 

ちょっとSFっぽいです。

では、どうぞ!

 

 

 

痛くも痒くもない

 

 その頃の世の中では、無痛分娩などとっくに超えて、痛くも痒くも大変でもない出産の時代になっていた。

 

 胎児は体内にいるときは大きく育たず、空気に触れた瞬間赤子のサイズになるよう医学でコントロールされた。そして軽い咳をするように「んっ」と力を込めると出産の儀式は終わる。

 

「おぎゃあ」

「ご存知の通り、元気な女のお子さんです」

 

 簡素な言葉に母親は、

 

「ええ、お世話さまです」

 

 とベッドから起き上がり、会計をすませるのだった。

 

 出産の時間は十分単位で調整できた。女性たちは出産の日、午前か午後の半休を取り、街中にある出産専用施設でさくっと、子を産むのだった。

 

 そうして出産を終えた母親には、国から美しい女性型ロボットが支給される。

 

 「ローズ」と呼ばれるその女性型ロボットは、優秀な子育て支援機能が備わっていた。母親が一切苦痛を感じることなく生活できるよう、フルタイムで赤子から八歳まで育て続けることもできた。設定を変更すれば、母親が一日子どもの面倒を見る日をつくることもできる。すべてコントロールが可能なため、母親は育児に振り回されることがなくなった。

 

 ローズはまたたく間に普及した。出産時の痛みもなく、育てることが義務でもなくなると、女性は出産を怖がらなくなった。結婚したし産んでおくか、という軽さで産み、一切をローズに任せる母親が大半となった。ごく一部、自力育児を望んでするものもいたが、自身が病気をしたときなどはローズに頼った。「ローズ不要派」もいたのだが、「紙おむつ反対派」と同じ少数の頭の固い人間、と切り捨てられ、今はもう「ローズ不要派」はほぼいない。

 

 痛くも痒くもない出産によって、産休制度は消えた。産んだその日にライブをする歌手、産んだその日に海外出張、あらゆる事例が当たり前に浸透し、出産は気楽なものという位置づけとなっていった。

 

 女たちは手帳に同窓会の日程を書くように軽く「出産」と書いた。産んでもローズが育ててくれる。ローズに任せておけばあとは遺伝子にぴったり合った適職へと育て上げてくれる。

 

 あるくもりの日。高層マンションのエントランスに乳児を抱いたローズが集まっていた。ローズたちは各自の子どもの育て方に自信を持っているので、他の乳児と自分の育てている乳児を比べることはしない。話すのは自分たちのオイル交換スケジュールやアップデートの日付のことくらい。あとはただ微笑んで、自分の育てている乳児と遊んでやっている。

 

 その頃母親たちは、オフィスで仕事をしていた。ある食品メーカーのオフィスで、こんな会話がかわされている。

 

「毎日こうして働けて、幸せね。私たち」

「子どもの職業も、遺伝子から割り出して決められていると思ったら、もうその道でいいわって思うのよね」

「ローズに任せていなかった頃は、将来のことを話し合ったり反抗期があったり、それは大変だったそうよ」

 

 母親たちは誰もがのんびりとした顔をしていた。痛みのない時代に生きる人間は感性に尖りがない。皆良く言えばのんびりと、悪く言えば阿呆になっている。そして、息をひそめるようにローズは少しずつ賢くなっている。

 

 そもそもローズを売るために、ロボット開発企業が医療機関に「無痛分娩自由化」を持ちかけたのがきっかけであった。そこから医療はタブー視されていた早期出産、完全無痛分娩、胎児を小さいまま産む技術をどんどん開発していった。しかし痛みを伴わない出産は、母親の自覚を呼び覚まさなかった。

 

 そして育児はローズがする。女の人生は充実するどころか、のっぺりとしたものになっていった。少し前の時代は、仕事のできる女がわんさかあふれていた。無痛分娩自由化によって、有能な女が社会で活躍する……という絵図を誰もが描いていた。しかし予想に反比例して、女は作業的な仕事を好むようになり、能動的な仕事につかなくなっていった。もちろんよく働く女もいるが、昔ほど多くない。みんな牙を抜かれたようになってしまったのだ。

 

 医療機関の会議室で、一人の若い男性医師が声を上げた。

 

「このままだと女性の能力が下がっていく一方です。どうでしょう、無痛分娩を禁止にしては」

 

 年配の医師は、すべて悟ったような柔和な笑顔で若い男性医師に歩み寄り、肩に手を乗せた。

 

「きみの考えは正しい。だけど大丈夫なんだよ。ローズの次世代型が完成間近なんだ。彼女たちは育児をしながら、仕事もできるんだよ。人間女性が単純な仕事しかしなくても、ローズがそこを補完してくれるようになる」


 そこで年配の医師は声をひそめ、にやりと笑い、低い声で続けた。

 

「すごいんだよ。次世代型ローズはアレも実装するそうだ。だから何も心配いらないんだよ……」

 

 若い男性医師は、口を開けたまま何か考え、それを飲み込み、納得したように着席した。

 

 妖艶なローズはきっと、仕事をしても優秀だろう。そして家庭内では、育児だけでなく夫の不満を聞き、夜の相手もすることになる。その無尽蔵な体力でもって、家庭内の不満をすべて吸収していくことだろう。そんな未来が待ち遠しいじゃないか……。

 

 その会議室内の医師は、全員男性だった。皆自分の妻のことより、新しく実装されるローズの「夜の遊戯」を想像し、下卑た笑みを浮かべて下半身と脳にエネルギーをみなぎらせた。

 

 

 

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過去に書いた短編小説はここにまとまっています。お時間のある方は遊びに来てくださいませ。

 

www.kandosaori.com

 

それじゃあ、また明日!