接客業はつらいよ! あけすけビッチかんどー日記!

昭和のメスの生き残りとして、ぎりぎりまで足掻く35過ぎ、おんな盛り。特技は人を愛することです。継続性はございません。

【連載2】わたしの最悪のキス

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こんばんは。


腐っても鯛、歳老いても女のかんどーです。


今日はキスの連載の続きを書くよ。前回は、わたしのファーストキスのことを書きました。

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今日は「わたしの最悪のキス」の思い出を書きます。たぶんこのことは誰かに話すのも、どこかに書くのも初めて。



★★★



わたしは20代の半ばをクラブシンガーと水商売に明け暮れて過ごした。コンビニのアルバイトやスイミングコーチのアルバイトもしたけれど、それらの仕事は時給が安くて、1日12時間働いても生活していかれなかった。結果ちいさな借金がかさみ、それを返すために水商売をする循環になってた。


わたしは水商売に何の抵抗もない。風俗の仕事にも何の抵抗もない。一体何がいけないというのだろう。ただ短時間でたくさん稼ぎたいだけ。稼いだ分だけすり減るのは粘膜だけじゃないことくらい、やってる本人が一番わかってる。


たくさんのものをいちどに失いすぎると、実はあまり痛みを感じない。処女なのに風俗店で体入をするとか、そういうあまりに大きすぎる刺激は人の感覚をにぶくさせる。人はいちどに大量の刺激を受けると、受け止められる刺激の量を超えた時点で感情のスイッチがオフになる。


オフになった感情は、オンになったときに濁流となって押し寄せてくる。わたしは今でもその癖が抜けない。夜になると感情の高まりがおさえられない。1日止めていた各種の感情のゆらぎ、動きが夜、動き始める。接客業をしていると、1日自分の感情を制御するのが仕事だから。

 

だから夜になると変に開放的になってしまう。粘膜から始まる一時的で熱すぎる感情の高まりを、誰かに止めてほしくてベルを鳴らす。

 

★★★




……20代半ば、まだ光ファイバーの飛び込み営業の仕事に出会えていないころ。


趣味みたいに昼間のバイトして、お金がなくなると水商売をするサイクルからどうにかして抜け出したかった。そんな悩みを、重くなりすぎない程度に周りに話していた。だれかが、新しい世界にわたしを連れて行ってくれると信じていた。


水商売のお客さんの一人が、わたしに昼間の仕事を紹介してくれると言った。

その仕事はいわゆる「とりあえず事務」のような仕事らしかった。


しかし、事務の仕事は経験もあり、向いていないと思っていたので丁重にお断りした。そうしたら今度は「営業」の仕事を紹介してあげると言ってきた。その男はとても顔が広いらしく、50代で、いろいろなところに顔がきいた。


営業の仕事を紹介する、という話にわたしは乗り、まずは食事をしながら仕事の説明をすると言ってきた。この時点で「え?」と思ったのだが(そもそも同伴以外で外で会うとかあり得ない)、禁止されているわけでもなかったので、まあいいかと思って行ってみた。


場所は銀座。


それなりにお洒落をしていったが、今思い出すと不倫カップルだらけの「エセ高級店」であったことがわかる。価格帯も想像がつく。本命の女をくどくときや、仕事の話をする店ではない。女を落とすためだけに存在する、居酒屋なのに店内に無駄に水が流れているお店だった。


客はカップルばかり。それぞれ個室のような区切りで仕切られ、食事とお酒を楽しむ。当時はまだダイエット依存症とアル中だったので、ちまちまとオードブルのような食事が運ばれてくるスタイルと、お酒ばかり飲んでいても大丈夫な空気がわたしは気に入った。そもそもそういう後ろ暗い場所がわたしは好きなのだ。

周囲のカップルはみな、幸せそうとはとても思えなかった。男は自分を誇示することだけを考え牙をむきだしにし、女は自分を守っているか高く売ろうとするかのどちらかだった。


悲しかった。


わたしは仕事の話をしてもらえると思って来たのに、50代男は自分の自慢話ばかりしている。わたしが退屈そうにすると仕事の話をちょっとだけする。駅の名前を言ったり、仕事の内容をぼかして伝えてきたりしながら、のらりくらりと男女の会話へ持ち込んでいく。


これ、仕事じゃないか。


男の人を楽しませる会話をする、仕事じゃないか。


わたしは昼間の仕事をしたら、職場の男の人の話に熱心に耳を傾けなければならないのだろうか。水商売なら時給二~三千円くらいもらえるから全然苦にならないけれど、時給になおしたら千円にも満たない仕事で、どうして男の話など聞かなければならないのだ。


わたしは自分が話のイニシアチブを握りたかったが、それができるほどの教養も語彙もないことがわかっていた。だから男の話を聞くことに高い時給をつけてくれる水商売を選んだんだ。男の話をずっとニコニコして聞いて、家に帰って泣いていた。話がしたかったのに、今日もできなかったって思って泣いていた。不器用な女だった。


ある程度飲むと、50代男は顔を赤くして二軒目に行こうと言い出した。もう勝手にしてと思った。その居酒屋を出てすぐのところにあるバーのような店で(明らかに、男のいきつけではないバーだった)男は、ちょうど自分が理性を失うところまで飲んだ。


バーはすぐに出た。男はすぐにタクシーを止めた。わたしを押し込み、これからホテルに行こうと赤い顔で言ってきた。わたしはうきうきと笑った顔を崩さないまま、

「ダメですよぉ、わたし明日昼職あるんですぅ♡」

と言った。当時わたしはコンビニのバイトをしていた。男もそれを知っていた。男は、

「さおりが休んでも代わりの人が出るからいいじゃないか、ホテルへ行こう」

そう言った。この人は仕事がどういうものかまったくわかっていない、と思った。仕事とはその人自身が自分の生き方を投影しておこなう営みだ。もちろん適当にやったっていい。手を抜いたっていい。ただ、その人が必死で守っている仕事の流儀だけは他人が侵して良い領域ではないのだ。


わたしの代わりがいる? どこに? 同じことをできる人はそりゃあたくさんいるだろうけれど、わたしは自分を明日に一歩進めるために、昼職のコンビニで品出しをして、わたしが出した牛乳を買っていくお客さんの生活を想像してよろこぶんだ。


わたしの命のよろこびを止める50代男には何の用もないと思った。


タクシーを止めるときは、運転手さんを味方につけるといい。

「運転手さん、停められるところで停めてください」

と言えば良いのだ。


タクシーは停まった。わたしにもわかる場所で停まってくれた。まだ電車はある。ここから最寄りの駅に歩いて、自宅まで電車で帰れる。瞬時に頭が働いた。


タクシーのドアが開いた。降りようと50代男に礼を言いながらドアから足を出す……と、後ろからすごい力で50男に肩を引き寄せられた。ひっつかまれた、という方が正しいかもしれない。タクシーの後部座席でわたしは、半ば仰向けになるような状態で、むちゃくちゃな角度で50男にベトベトのキスをされた。


50男はもう体中が性器になってしまったようで、服も脱がされかけた。服の上から胸をギュッと絞るように掴まれ、痛くて泣いてしまいそうだった。


ベトベトのキスの雨は降りやまなかった。よだれも垂れてきた。肩をつかまれて上半身を起こされ、後部座席でやっと普通のカップルが向かい合うような姿勢になった。50男はタクシーの運転手に「ドアを閉めろ」と言った。


わたしは実は、このとき興奮していた。タクシーの運転手に見られ、通行人に見られ、服が淫らに乱れている自分がかわいそうで、女であることに集中してしまったのだ。運転手は何度か怒鳴られてドアを閉めた。完全な密室ができあがった。車が少し動いた。人目につかない場所に移動したのだろう。


わたしはベトベトのキスをいや、いやと首を振って逃げようとするのだが、ギュウと乳房をつぶされ、とうとう下腹部に手を伸ばされるともうたまらない。脳の芯がしびれるのだ。



このまま……されてしまっても……




安い女だったと思う。何のメリットも提示されていないのに、特異なシチュエーションであることだけに興奮し、メスになり下がる自分が大嫌いだった。


わたしの中で結論が出た。


わたしは50男の顔を抱き寄せるようにし、首に角度をつけて自分からキスをした。粘るような音がするキスに男は満足をおぼえたようで、それまで乱暴だった手つきがやさしいものに変わり、男の両手は優しくわたしの腰に添えられた。唇と舌の動きを止めないまま、その手をやさしく撫で、太ももを撫で、男の表情が恍惚としていくのを見ていた。


瞬間、わたしは男をドンと突き飛ばした。


ドアを開け、タクシーを降りた。鍵はかかっていなかった。人気のない場所から人混みの中へ自分をすべり込ませる。乱れた衣服を整え、息を整え、男のツバをハンカチで拭いた。




……人生最悪のキスだ。




わたしはそのとき確かにそう思った。そして、それはわたしの人生で確かに最悪なキスの思い出となった。これから先、あんなに嫌なキスをすることはもうないと思う。


逃げられたのは良かったが、一瞬でもあんな男のすることに感じてしまった自分が憎かった。いくら仕事で男性と接する機会が多いからって、あんな状況で感じるなんて……と涙がこぼれた。しかし、涙を拭きながら考えた。逃げられたのは、ある程度男に慣れていたからだ……わたしは策を練って男から逃げたのだ……と。



その後その男との連絡は取らなかったし、店に来たのを見かけたことがあるが、他人だと思って接した。そういうことができるくらいには夜の仕事に慣れていた。

 

 

その後、自分で見つけた「月収100万以上!」といううさんくさすぎる求人をきっかけに、わたしは光ファイバの回線敷設営業の道に入る。

 

結局誰にも手を引かれず、自分で切り拓いた道を進むことになった。結果としてその仕事の延長で今も食べさせてもらっているので、たぶんあのキスを振り切って自分で選んだ仕事が正しかったのだと思う。

 

 

思わなきゃ、やってられない。




わたしの最悪のキスの思い出は以上です。
次回は、いつになるかわかりませんが、幸せなキスの思い出を書きたいと思います。


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それでは、また明日夕方5時にお会いしましょう。



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わたしは東京にはいません。千葉とか群馬とかそのあたりが好きです。

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